SASSEN はじまりの軌跡

※本記事は、「宣伝会議 第43期 編集・ライター養成講座」の卒業制作として作成したものです。(写真提供:全日本サッセン協会)

誰もがサムライになれる!
武術×ITが生んだ新スポーツ

今、SASSEN(サッセン)が熱い。センサー付きの光る刀で戦う次世代スポーツだ。創設メンバーのインタビューと筆者の体験を通して、その軌跡と魅力に迫る。

 

メディアも注目する
次世代型デジタルスポーツ

審判は、スマホ一台。IT技術を活用した新スポーツ「SASSEN」は、圧力センサーを内蔵した「SASSEN刀」を使って、チャンバラのように一対一で戦う。どちらが先に刀を相手に当てたか、アプリで判定ができるシステムだ。

サッセン発祥の地は福岡県北九州市の武術道場。2016年12月に全日本サッセン協会(以下、サッセン協会)が設立され、現在は東京を中心に体験できる場が広がっている。2年前、約150人だった体験者数が、現在は10倍の約1500人。この1年でテレビ、ラジオ、新聞などメディアへの露出も相次いでいる。

秋葉原で月2回開催される関東大会の様子

2020年12月には、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」がテレビ番組でサッセンを体験。2021年には複数のバラエティ番組で取り上げられ、TBS「所さんお届けものです!」では注目のネクストスポーツとして紹介された。11月には日本テレビ「スッキリ」生放送で、出演者の加藤浩次さんとサッセン協会・会長の本村隆馬(もとむら・りゅうま)さん(31)が対戦。スタジオで真剣勝負を行い、加藤さんが勝利する番狂わせに沸いた。日経新聞都内版(12月2日)では、デジタル技術を活用した新競技として記事が掲載されるなど、スポーツ、エンタメ、ITと多様な角度から注目されている。

本村さんは「サッセンの魅力は、年齢や性別に関係なく誰もが楽しめて、どんな場所でもできること。体験した人からは、『やってみたら、思ったよりもおもしろかった!』と言われます。テレビで加藤さんに負けたのは本気で悔しかったですが(笑)、経験者が勝つとは限らないところもサッセンの良さなんです」と語る。

 

センサー内蔵の光る刀で
60秒の真剣勝負

サッセンは、秋葉原(東京都千代田区)で月2回行われる体験会をはじめ、地域行事とのコラボイベント、サッセン教室などで体験できる。スポーツは、実際にやってみなければわからない。北九州在住、50代の女性ライターが、秋葉原でサッセンに初挑戦した。

会場は、JR秋葉原駅から徒歩5分の「A-LABO(エーラボ)」。IT企業の研修センターが会場となっている。当日の参加者は40人ほどで、子どもから大人まで年齢層は幅広かった。

本村さんから説明を受け、まずはウォーミングアップ。ペアを組み、センサー無しの練習刀で叩いたり避けたりする基本動作を学ぶ。刀はポリエチレン製でやわらかく、ほどよい弾力がある。叩くと「パーン!」と派手な音がするわりに、痛くない。まるでハリセンで叩き合って遊ぶような感覚で、相手と大笑いしながら練習した。次に、全員参加のレクリエーションがあり、和やかに交流した後、ついに試合が始まった。

対戦時間は60秒。センサー付きのサッセン刀を相手の体に当て、2本先取したほうが勝ち。頭部に当てるのは禁止で、攻撃回数は5打まで。無駄な振りはできないため、タイミングを計る頭脳戦となる。判定はスマホアプリで行い、先に当てたほうにポイントが入る。0.025秒以内の相打ちは、鍔(つば)迫り合いの「キーン」という音が鳴り、どちらもポイントにはならない。ルールを頭の中で反芻しながら、自分の出番を待った。

 

憧れの世界が現実に
サムライになれる非日常空間

決戦の舞台は5m×7mの限られたスペース。非日常の空間に足を踏み入れるワクワク感と緊張感がある。相手に一礼をして、青く光る刀を持ち、呼吸を整えて構える。誰もがサムライになれる瞬間だ。鬼滅の刃、スターウォーズ、宮本武蔵、るろうに剣心……。憧れの世界に入っていく。

対戦相手は背が高く、若い男性だった。私が初心者のアラフィフ女子であろうと、手抜きはしない雰囲気が伝わってくる。あぁ、これがサムライの真剣勝負なのだ。ならば、こちらも挑むまで。「えぇい!」と華麗に切りかかった途端、「バチーン!」と激しく左腕をやられた。「大丈夫ですか?」と声を掛けられたが、情けは無用。最後まで剣士として戦い抜き、善戦むなしく散った。(注:本人の感想)

ルールを守れば戦い方は自由だ。隙のない構えで動かない人、ジャンプで突っ込む人、ぐるぐる走り回る人、隅に座り込んで攻撃を誘う人など、いろんなタイプがいた。コスプレもOK。個性豊かなスタイルは、見ている側も楽しい。

誰もが自分の思い描く剣士になれる!

 

発祥の地は北九州
師範が目指した理想の武術 

サッセンは、福岡県北九州市で生まれた。風林火山武術道場の師範・本村隆昌(りゅうしょう)さん(63)の長年の構想が基になっている。隆昌さんはサッセン協会・会長の本村隆馬さんの父親で、武術の師。現在は同協会のアドバイザーとして、地元でサッセンの普及に努めている。

隆昌さんは、「誰もが楽しめる武術をつくることは十代の頃からの夢でした。勘違いや失敗もいっぱいしたけど、諦めない気持ちは強かったですね」と快活に語る。

武術との出合いは中学3年のとき。ある日、武術二段の同級生に言いがかりをつけられ、一方的に殴られたことがきっかけだった。護身術に関心を持ち、空手の本を買って自己流の訓練を始めた。高校ではバレー部に入ったがやりがいを見いだせず、本格的に武術を志すようになった。

「自分が強くなれば暴力を止められると思って、格闘技に打ちこみました。でも、人を殴るのも殴られるのも、嫌いでね(笑)。誰も怪我をしない武術システムを構築したいと考えるようになったんですよ」

高校卒業後は、東京の拓殖大学に進学。空手をはじめ、中国拳法、棒術、合気道、柔道、ボクシング、剣道などさまざまな武術を体験し、特徴を研究した。地元企業に就職し、25歳で空手を中心とした武術道場を創設。30代半ばで独立し、約30年にわたって、子どもから大人まで1000人以上の指導にあたってきた。自分自身を鍛え、人を傷つけずに身を守る力をつけることを道場の信念としている。

道場では、ナイフで襲われたときの護身術として、やわらかい棒を使って避けたり逃げたり叩いたりする動きを練習してきた。これがサッセンの原型となっている。

 

試行錯誤のサッセン開発

隆昌さんが、理想の武術を構築しようと試行錯誤していた2014年、長男の隆馬さんが関西から帰郷した。隆馬さんは3歳から武術を習い、学生時代は他のスポーツをしていたが、「また空手がやりたい」と道場を訪れた。会社勤めをしながら師範代として子どもたちに空手を教え、師範の隆昌さんと一緒にサッセンの開発に関わるようになっていった。

使用する棒は、エアコンのホースや断熱材など、いろいろな素材で試作をした。「ホームセンターでいろんな素材を買い占めて、当たったときにいい音が鳴り、痛くない適度な硬さを何度も試しました。長さは大人の肘から指先までくらい。これが近すぎず遠すぎず、ちょうどよい間合いなんですよ」と話す隆昌さん。2015年、100本以上の試作を重ねて、ポリエチレン素材を使ったサッセン刀の原型ができた。

エアコンのホースで作った棒で練習をする道場生。最適な素材を求めて試作を重ねた

サッセンの開発にあたって、当たり判定をいかに正確に行うかは大きな課題だった。「フェンシングのように機械で判定ができたらいいのに」と考えたとき、頭に浮かんだ人物がいた。当時、理工系の大学院生だった鋤先星汰(すきさき・せいた)さん(29)。子どもの頃から武術を教えてきた道場生だ。高校時代にはロボット競技会「ロボカップ」で全国1位、世界2位という素晴らしい実績がある。「彼なら良いアイデアがあるかもしれない」と思い、機械判定の構想を伝えたところ、鋤先さんは「できますよ、先生」と応えた。

サッセンの構想が徐々に具体化していくなかで、鋤先さんがセンサー付きサッセン刀の開発担当となり、3人を中心とした創設チームができた。

 

「サッセン」の由来と協会設立

サッセンには、偉大な影の立役者がいる。世界一過酷なヨットレース「ヴァンデ・グローブ」で、アジア勢初の完走を果たした海洋冒険家の白石康次郎さん(54)だ。師範の本村隆昌さんと白石さんは20年以上の付き合いがあり、定期的に会って武術の訓練を共にしてきた仲である。

「サッセン」という名前は、白石さんとの会話をきっかけに生まれた。「以前、白石さんと一緒に武術の技の名前を考えたことがあるんです。電子辞書で調べたら、颯爽と風を切るさまを意味する『颯然(さつぜん)』という言葉を見つけ、いいね! となりました。宮本武蔵の二天一流剣術『指先(さっせん)』にもヒントを得て、新しいスポーツ武術にこの名前を使うことにしたんですよ」と隆昌さんは話す。

サッセンの開発にあたって、特許取得をすすめてくれたのも白石さんだった。サッセンチームは特許の知識がなかったため、勉強会を開いて特許について学ぶことから始めた。類似品の調査を行い、必要な書類をそろえて申請。2016年12月、無事に「スポーツ交戦装置」で特許を取得し、サッセン協会を設立した。

世界を舞台に挑戦を続ける白石さんは、サッセンの進化を見守ってくれる力強いサポーターであり、チームにとって大きな心の支えになっている。

2021年11月、東京で再会した皆さん。左から隆昌さん、白石さん、知人の渡辺博さん、隆馬さん、鋤先さん

 

「創る」から「伝える」フェーズへ

4年前にサッセン協会が設立してから現在に至るまで、サッセンは数々の進化を遂げてきた。当初、使う道具は「刀」ではなく「棒」と呼ばれ、試合では道着を着用し、判定はパソコンで行っていた。現在のルール、スマホアプリ、光る機能などは、改良を重ねて生まれたものである。

サッセン協会ができた翌年には地元メディアが注目し、北九州生まれの新スポーツとして新聞などで紹介されるようになった。そんな中、テレビの取材を受けたことが一つの転機になった。「撮影に来たディレクターさんから『もっと楽しそうな場面を映したい』と言われて、ハッとしました」と隆昌さんは言う。

誰でも楽しめる生涯スポーツを目指してきたものの、武術の形式にこだわると雰囲気が固くなってしまう。見ている人に楽しさを伝えることも大事だと気づいた。

今までは創ることに一生懸命だったが、未来を見据えてサッセンを育てていかなくてはいけない。息子の隆馬さんを中心に、広報活動に力を入れるようになった。隆馬さんは、「サッセンを体験した人が喜ぶ姿を見て、もっと誰でも気軽に楽しめるようにしたいと思いました。僕自身が一番苦労したのはブランディングですね。誰にどんなイメージでいかに伝えるか、四六時中、考えていました」と当時を振り返る。

 

ロゴとキャッチコピーを作成し
広報活動を展開

サッセンをわかりやすく伝えるためには、象徴となるロゴが必要だと考えた隆馬さん。グラフィックデザイナーにサッセンのイメージや特徴を伝え、実際に体験してもらってロゴ作成を依頼した。

デザインを担当した田畑祐子さんは、ロゴに込めた想いを語る。
「サッセン棒をモチーフに、湾曲させることで勢いと弾む楽しさを表しました。にっこり笑う口とほっぺのようにも見えるデザインです。ロゴタイプは、丸くてポップな雰囲気を出しつつ、縦の線を切ることで武道に通じる心の軸を表しました。色は男女差がなく、誰にでも馴染みやすい水色。大会で旗を立てたときに目立つ鮮やかな色彩を選びました」

隆馬さんが一番悩んだのは、キャッチコピーだった。サッセンとは何か、最初の言葉が見つからない。ある日、巌流島の武蔵と小次郎の対決をイメージし、「ITの力でサムライの勝負を現代に再現した次世代のエンタメ系デジタルスポーツ」という言葉が浮かんだ。ロゴとコピーが決まり、自信を持って広報ができるようになった。

2018年から2019年にかけて、ホームページ、チラシなどの広報ツールが完成。「サムライの勝負を現代に再現」というコンセプトに沿って、システムやルールも改訂した。全国放送のバラエティ番組で紹介されたことを機に、東京で体験会を開催するようになった。

 

進化するSASSEN刀

センサー付きSASSEN刀の設計と製作は、鋤先さんがすべて担ってきた。サッセン協会の肩書はCTO(最高技術責任者)・SASSEN刀開発担当者。「僕の役割は開発と、事業の収益化戦略の立案です。先生の想いや隆馬さんがやりたいことを実現していくために、利益最大化を常に考えています。3人ともできることが全然違うので、うまく役割分担している感じですね」と、丁寧に言葉を選んで話す。

福岡県宗像市の出身で、6歳から道場に通い、進学で地元を離れた後も定期的に武術を続けてきた。小学5年からロボカップに出場し、高校では電気物理部に所属。筑波大学工学システム学類に進学し、大学院卒業後は就職したが、一年後に起業。現在はドローンの研究開発をはじめ、さまざまな新規事業に携わっている。

SASSEN刀の開発は、チームで話し合いながら、資金も時間も限られたなかで、着実に機能を進化させてきた。最初は刀の圧力センサーが感知した打撃をパソコンで表示するシステムだったが、2018年に刀とスマホを無線通信Bluetoothでつなぐアプリを開発。アプリはApp Storeで無料でダウンロードでき、どこでも手軽に判定ができるようになった。

何度も叩くと壊れる問題を解決するために材質を見直したり、判定精度を上げるためにバッテリーや圧力センサーを変更したり、LEDで光る機能を追加するなど改良を繰り返した。LEDは青く光り、振ると緑、当たると赤に色が変わる。

2021年夏に完成した最新モデルは、3Dプリンターで製作した取っ手の内部に、通信モジュール、基盤、電気回路が入っている。カーボンパイプ(炭素繊維強化プラスチック)を芯と持ち手に用いることで、耐久性と使用感が格段に向上した。

「技術的にやりたいことは、まだいっぱいあるんです。センサーの精度をもっと上げる、置くだけで充電できるようにする、刀に当ったか手に当ったか判定可能にするとか。いろいろありますが、費用と時間のバランスを取って改良していきたいです」

刀の圧力センサーとiPadやスマートフォンが連動し、瞬時に打撃がカウントされる

練習用SASSEN刀

LED・圧力センサー付きSASSEN刀(2021 ver.2)

 

対戦だけじゃない
遊び・学びに広がる可能性

サッセンは対戦だけではなく、レクリエーションや学びの場でも利用されている。サッセン協会の賛助会員であるセントラルエンジニアリング株式会社(神奈川横浜市)では、チームビルディングを目的とした研修でサッセンを導入。レクリエーションや団体戦を行い、社内のコミュニケーションを深めている。

北九州の高齢者施設では、レクリエーション活動の一環でサッセンを使っている。相打ちで「キーン」と音が鳴る機能を利用し、みんなで息を合わせてボールを叩く。適度な運動になり、笑顔あふれる人気のゲームとなっている。

2021年9月には、学校の授業にサッセンが初導入された。ICT教育の推進により一人一台配布したiPadの活用法として、愛知教育大学付属岡崎中学校が保健体育の授業に3カ月間サッセンを取り入れた。学校側から依頼があり、隆馬さんが出張授業をして導入をサポート。刀はレンタルで提供した。文化祭では生徒たちがサッセンについてプレゼンテーションを行い、対戦も披露した。

体育の授業でサッセンの練習をする中学生

刀を使ったレクリエーション・イライラ棒を楽しむ生徒たち

サッセンで笑顔になる高齢者(刀は旧バージョン)

誰もがサムライになれる
おもしろいフィールドを全国に

会長の隆馬さんは、昨年の秋、サッセン事業のために、北九州から東京に転居した。これからの展開について抱負を語る。

「一つ目は、今まで開催できなかった全国大会をすることです。各地域の人が集まって、日本一を決める大会を開きたいです。二つ目は、47都道府県にサッセンができる場をつくること。例えば海辺でもいいですし、地域の特色を生かしたフィールドがあればいいなと思います。旅行先で立ち寄ったり、強い人がいたら挑みに行ったり。サッセンでいろんな地域と人がつながっていったらおもしろいですね」

そのために、各地域のインストラクターを養成し、サッセンができる環境づくりを進めていく。地域イベントや他のスポーツとのコラボも積極的に行う予定だ。「サッセンを体験する機会を、より多くの人に提供するのが自分の仕事。最終的には、誰でも長く楽しめる生涯スポーツを目指しています」と言う隆馬さん。焦らず、おごらず、諦めず、想い描く未来に向かって真っ直ぐな姿が印象的だった。

スマホアプリ、光るビジュアル、短時間かつ非接触型の対戦という時代に合ったスタイル。そして、心の中に宿るサムライ魂が呼び覚まされるワクワク感がサッセンの魅力だ。たとえ負けても楽しい気分になれるのは、人の間にITが入ることで、勝負をエンターテイメントに昇華してくれるからではないだろうか。

秋葉原の体験会には、耳の聞こえない子どもたちも参加し、伸び伸びとプレイしていた。視覚的な判定ができるサッセンは、障がいや言葉の壁も越えられるユニバーサルなスポーツである。

北九州生まれ、秋葉原育ち。全国、さらに世界へ羽ばたく可能性を秘めたSASSENから、今後も目が離せない。

北九州市のイベント「小倉城まつり」の体験会。子どもたちが真剣勝負!(2020年10月)

子ども向けサッセン体験教室。鬼滅の刃の衣装で、ポーズを決める子どもたち

埼玉県久喜市で、フェンシングとコラボ開催した体験イベント(2021年10月)

滋賀県の商業施設・三井アウトレットパーク滋賀竜王のイベントでご当地武将隊とコラボ(2020年11月)

取材協力:全日本サッセン協会 https://sassen.jp/